小さな世界の外側で ~第30話~ [小説:小さな世界の外側で]
翌朝、ジョンは目覚まし時計が鳴る前に目を覚ました。隣の布団では、ハナがうつ伏せで枕に顔をうずめている。まるで泣いているような体勢だが、規則正しい呼吸音が聞こえる。まだ熟睡しているようだ。ジョンは体を起こし、時計を見た。時刻は午前6時だった。目覚まし時計が鳴るのは1時間後だ。起こした体を再びベッドに投げ出し、ジョンは目を閉じる。余計なことを考えないよう、あと1時間寝ようと思った。
目覚まし時計のベルは、鳴らなかった。ジョンが二度寝した1時間の間に、ハナがベッドから叩き落として壊してしまったらしい。7時半になって、チャーリーが2人を起こしに来た。ジョンは夢を見ていたような気がしたが、乱暴な起床のビンタをくらい、夢の内容はすべて忘れていた。
「ったく、手間かけさせるなよ。寝ぼすけコンビめ。」
チャーリーの小言も耳に入らないほど、ハナは眠そうだ。枕を抱えて欠伸をする姿には、まったく緊張感がない。
「今日は敵地に乗り込むんだろ。そんなんじゃ、あっという間にやられちまうぞ。」
「・・・あ、バカザルだ。おはよぅ。」
まったく噛み合わないチャーリーとハナの会話は、妙に微笑ましかった。
「おはよう。2人とも、よく眠れた?」
寝室を出ると、ソラノの爽やかな笑顔がキッチンから顔を出した。ダルとテイラーはとっくに朝食を済ませ、装備の手入れをしている。
「あと3時間くらい寝られたら、よく眠れたって答えられるかな。」
「ダメよ、寝すぎは体に悪いんだから。はやく顔洗ってらっしゃい。」
いつもと変わらない朝だった。そのことが、逆にジョンを不安にさせた。
「・・・大丈夫だよ。」
不意にハナが呟いた。
「え?」
ジョンの間の抜けた声など聞こえなかったかのように、ハナは洗面所に入っていった。ジョンも続くが、2人は言葉を交わすことなく身支度を進めた。
「おいジョン、ハナ。作戦の確認するぞ。」
ダルに呼ばれ、テイラーも含めた4人がテーブルにつく。このメンバーで山に向かうことになっていた。
「先頭はハナ、最後尾はテイラーだ。ジョンは2番目、俺が3番目に並ぶ。ハナは道案内と警戒、戦闘。テイラーと俺は警戒と戦闘だ。ジョンは情報収集。」
「情報収集?」
「敵の数や道の把握だ。重要な役目だからしっかりやれよ、新米退治屋。策は1つ、突き進むのみだ。」
作戦と言えるのか分からないような代物だと、ジョンは思った。具体的には、厳重な警戒でなるべく敵との接触を避けていくという事だが、そんなにうまくいきはしないだろうと、簡単に予想できた。
「そんな顔するな、ジョン。なんとかなるさ。」
「そんな甘っちょろいこと言ってられないぞ。なんとかするんだ。」
ダルとハナの言葉に、ジョンは曖昧に頷いた。
小さな世界の外側で ~第29話~
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タグ:小説
ご訪問&Niceありがとうございます。
毎日書かれているんですか?
書いてあるのを、小出しに?
今度遡って見たいと思います。
by caterham_7 (2015-05-17 18:47)
caterham_7 様
こちらこそありがとうございます。
小説は書き溜めつつ、ちょこちょこ足していっています。
読んでいただけて、とても嬉しいです。
by 井上さき (2015-05-18 07:35)