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小さな世界の外側で ~第33話~ [小説:小さな世界の外側で]






 トワイエは、まるで夕暮れ時のような世界だった。目の前に広がる泉は赤い水で満たされ、オレンジ色の空には黒いわた雲が浮かんでいる。まさに絶景だった。
「さて、ハジはどこにいるのかな。」
 故郷を懐かしむ様子もなく、ハナは泉の脇の一本道を歩き始めた。魔楼山と違い、あちこちに魔物の姿がある。ダルとテイラーは身構えているが、魔物たちが襲ってくる様子はない。
「大丈夫だよ。こいつらは無害だから。」
「どういうことだ?」
「ここの魔物が全員、ハジの傘下ってわけじゃない。ただの民衆だよ。」
 確かに魔物たちは、ハナに対して恭しく頭を下げている。ハナは突然、その中の1人の首を切り落とした。
「まぁ、中には敵も混じってるけどね。殺気立ってる奴には気をつけろよ。」
 3人に再び緊張が走る。ここは確かに敵地なのだと思い知らされた。
「ハナ様、お助けを・・・」
 一つ目の小男がハナに近寄るが、ハナは見向きもしない。小男はすぐに諦めて去っていった。その後もハナを呼び止めようとする魔物は後を絶たないが、ハナは時折じろりと睨みつけるだけで、相手にしようとはしなかった。
「ハナ、なんなんだ、あの連中は?」
 ダルが我慢できずに問いを口にした。
「ハジに見放された奴らだろ。ハジは強い奴を集めて、実力でここを統治してるみたいだから、弱い奴は圧政に耐えてる状態だろうな。私が救済に来たと思ってるんじゃないか。」
 ジョンは、実際はハナがトワイエを滅ぼしに来たと知れば、彼らはどうするのだろうと思った。世界を守るために戦うだろうか。それとも、世界もろとも滅んでも構わないと思うのだろうか。
「とりあえず、禁断の地を目指すか。お荷物を別の世界に帰してから、ゆっくりハジとやり合った方が効率いいよな。」
 誰も異論は唱えなかったが、ジョンは複雑な気持ちだった。確かに、戦闘において自分は足手纏いでしかないだろう。帰りたい気持ちももちろんある。しかし、この世界の結末を見届けたいという思いもあった。
 不意に、ハナが足を止めた。
「残念。そうもいかないようだ。」
 いつの間にか開けた場所に出ており、屈強そうな魔物たちが彼らを取り囲んでいた。ハナが狼の姿に変身し、ダルとテイラーも真剣な表情で身構える。
「ジョン、乗れ。」
「え?」
「背中に乗れって言ってんだ。突っ立っていられるよりは邪魔にならないから。」
 ジョンは言われるまま、狼になったハナの背にまたがった。
「振り落とされんなよ。戦闘開始だ。」
 魔物たちが、一斉に4人に襲いかかった。ハナとテイラーは爪と牙、ダルはライフルで応戦した。ジョンは身を屈め、必死でハナの背にしがみつく。我ながら情けないと思った。次々と襲ってくる魔物たちを退けながら、ハナは全速力で前に進む。テイラーもダルを担いでハナを追う。
「さすが、ハジのお気に入り連中。強いね。」
 軽口を叩いている余裕などないはずだが、ハナは薄笑いさえ浮かべている。しかし狼の姿だからか、それに気づく者はいない。ハナは獣の唸り声を上げると、一番大きな虎型の魔物に攻撃を仕掛けた。虎は真正面から応戦し、2頭の獣がもつれ合う。唸り声が交差し、互の体を傷付けあった。軍配はギリギリでハナに挙がった。先に喉笛に食らいつき、噛みちぎる。2頭の戦いが終わると、他の魔物たちの態度が急変した。蜘蛛の子を散らすように退いていったのだ。
「ハナ、大丈夫か。」
「大丈夫そうに見える?」
 ジョンが息の上がっているハナを気遣うが、ハナは生意気に応じる。その時、上から拍手が響いた。
「流石だね。ラドを簡単に倒すなんて。」
 空中で、ハジが笑う。ハナは鋭い視線を向けた。
「簡単じゃなかったさ。惜しい奴を失ったな。」
「ああ、まったくだ。そしてさらに惜しいことに、これから大切な妹を失わなければならない。」
 ハジは残念そうにため息をついた。それがハナの神経を逆撫でしていることは言うまでもない。
「やっと黒幕の登場か。」
 ダルがライフルを構え、発砲。ハジはあっさりと弾を避けた。
「危ないな。少しは兄妹の時間を楽しませてくれよ。」
「そんな時間いらない。とりあえず降りて来いよ、爪が届かないだろ。」
 ハジは肩をすくめ、ふわりと宙を舞い降り立った。






小さな世界の外側で ~第32話~

小さな世界の外側で ~第34話~

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タグ:小説
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コメント 4

詩人の血

図書館に行ったら、吉田一穂と言う詩人も
読んで見て下さい。
by 詩人の血 (2015-05-26 19:28) 

井上さき

詩人の血 様

いつもご紹介ありがとうございます。
古風で純粋な作風の方が多くて素敵ですね。
by 井上さき (2015-05-26 20:30) 

詩人の血

なぜ昭和初期の詩人を勧めるかと言うと、
感性が自然に即し豊かで確かに純粋だからです。
少しの努力で得るものが多いのです。
あとゲーテ、リルケ、ヘルダーリン、ハイネ
ドイツロマン派の一連の詩人は、読むに値します!
魂の栄養に、教養に、綺麗な心を作るために…
フランスの象徴派、ボードレール、ランボーなどは
その毒を分かって飲むならお勧めします。
どんどん読んで自分の作品にフィードバックしてください。

by 詩人の血 (2015-05-26 23:52) 

井上さき

詩人の血 様

ありがとうございます。
海外にもすばらしい方々がたくさんいるんですね!
参考にさせていただきます。
by 井上さき (2015-05-27 07:49) 

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