親子偽リアリ ~第7話~ [小説:親子偽リアリ]
「ただいまー。」
カーチェイスの末たどり着いたのは、ミーシャの知るどの拠点よりも薄汚くて狭い場所だった。それでもミーシャは笑えた。敵の銃弾が数発かすったが、生きて戻ってこられたから。エルビスは血塗れの来訪者を無愛想に出迎え、リリーナの手当を始めた。彼女は頭と肩に銃弾を受けていた。
「二年ぶりの再会なのに、美人優先?」
「お前の傷は浅い。彼女のほうが重傷だ。」
エルビスの対応に文句をつけつつ、ミーシャは自分で手当をする。
「少し痩せたな。」
珍しくエルビスから話しかけてきた。それがミーシャには嬉しかった。
「父さんのまずい料理じゃないと、食べる気にならないんだよ。・・・ねぇ」
ミーシャはエルビスに向き直った。
「二年前、どうして王のパレードに行った?」
リリーナの手当を終え、エルビスは荷物の中からパーカーとズボンを取り出した。かつてミーシャが着ていたものの、一回り大きいサイズだった。
「できることなら、お前を親元に帰したかった。俺といることは、お前にとって良くない。だが、不可能だったらしい。」
「そういうのを余計なお世話って言うんだよ。」
ミーシャはエルビスの手から服を奪った。これまで着ていた、無駄な装飾の多い服を脱ぎ捨てる。雑な対応をしながらも、ミーシャは安堵していた。エルビスが自分を捨てようとしていたわけではないことが分かったから。
「俺の親は父さん・・・と、リリーナだよ。」
着替えを終え、ミーシャはエルビスのナイフを手に取った。後ろ髪をまとめて掴み、襟足からバッサリ切り落とす。二年ぶりの清々しさだった。
「ねぇ、父さん。・・・あのパレードについていったこと、怒ってる?」
銃声。エルビスの銃が火を噴き、ミーシャの左こめかみスレスレに弾痕ができる。
「いや、もう怒っていない。」
ミーシャが涙を見せたのは、後にも先にもこの時だけだった。
親子偽リアリ ~第6話~
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