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小さな世界の外側で ~第17話~ [小説:小さな世界の外側で]

 報道関係者にはまいったが、支援が来たことは喜ぶべきだった。診療所に溢れていた患者は、ちゃんとした病院で治療を受けられる。診療所の負担も大幅に軽くなり、ソラノもホッとした様子だった。
 事件から1週間経った頃、ようやく街は落ち着きを取り戻した。とは言え、まだまだ急務は残っている。家を壊されて住む場所を失った人々は、学校や公民館で寝泊まりしている。これからの時期、現状の暖房設備では頼りない。高齢者や子どもも多く、心配事は尽きない。
「あら、雨降ってきた。強くなりそうね。」
 診療所に残った患者の一人、ロゼが窓の外を見て呟く。ジョンもつられて外を見た。確かに、大粒の雨が窓ガラスに打ち付けていた。それは瞬く間に数を増やし、十数分でどしゃ降りに変わった。
「こんな天気だと、復旧作業もできないわね。」
 ロゼは自宅が倒壊し、足に怪我を負って診療所に担ぎ込まれた。幸い傷はそれほど深くなかったため、都市の病院には行かず診療所に残ったのだ。
「足が治ったら、私も避難所生活ね。ちゃんとやっていけるかしら。」
 診療所のベッド数は限られており、怪我が治れば退所となる。ロゼは歩けるようになれば、近所の小学校で生活することになる。しかしその学校は古くて小さい。避難者が少しでも快適に過ごせるようにと、校内の掃除や雨漏り対策が行われているらしい。
「僕、避難所に行ってきますね。掃除くらいなら手伝えますから。」
 ジョンの言葉に、ロゼはびっくりした顔をした。
「こんな大雨よ。外に出たらびしょ濡れになっちゃうわ。」
「その小学校、雨漏りしてるんでしょう。少しは力になれると思います。」
 ソラノにその旨を伝えると、彼女は笑顔で頷き、傘を貸してくれた。
「じゃあ、行ってきます。」
「・・・ありがとう。」
 ロゼは心底嬉しそうだった。






 雨の強さは、ジョンの予想以上だった。風によって雨粒が傘の下に流れ込んでくる。ものの数分で体は冷たくなった。しかし、苦労して行った甲斐はあった。避難所の小学校は雨漏りがひどく、猫の手も借りたい状況だったのだ。
「いやー、若い人が来てくれて助かるよ。」
 水浸しの廊下を拭きながら、管理人の男性は嬉しそうに言った。ジョン以外にも、有志で集まった人々が掃除などを行っていた。この世界にも、他人のために働ける人がたくさんいるのだと、ジョンは少し嬉しかった。
 日が暮れるまで小学校で働き、感謝を受け取って帰路に着いた。雨は相変わらず強かったが、ジョンの気分は晴れ晴れとしていた。軽い足取りで薄暗い通りを歩いていると、ふといつもと違う何かに気づいた。普段、何もない路地。そこに、何やら黒っぽい物体がある。少し気になって、道の脇に積まれている瓦礫をかき分けて近づいてみた。
 ジョンは目を疑った。その物体は、あの少女だった。
 少女は建物の壁に背を預け、座り込んでいた。目を閉じ、荒い息を吐いている。その小さな体から滴るのは、雨水だけではない。右手で押さえられた腹部からは、血が流れ出している。
「ちょっと、キミ!どうしたんだよ!」
 ジョンが駆け寄ると、少女は微かに目を開けた。しかし、それ以上動こうとはせず、すぐに目を閉じてしまう。
 ジョンが取るべき行動は、一つだった。






小さな世界の外側で ~第16話~

小さな世界の外側で ~第18話~


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タグ:小説
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