小さな世界の外側で ~第31話~ [小説:小さな世界の外側で]
午前9時。いよいよ山へ向かうことになった。装備は必要最低限、スピード勝負で正面突破することになっている。ジョン、ダル、テイラーの緊張は高まるが、ハナはピクニックにでも行くような調子でチョコバーを咥えている。
「んじゃ、行くかー。」
気の抜ける号令をかけ、ハナが歩き出す。街中を歩くときは魔物だとバレないよう、バンダナで耳を隠し、手袋をはめている。人間に扮したその姿は、本当にアンナにそっくりだった。
「気をつけて。・・・生きて帰ってね。」
ソラノは気丈な笑顔で見送る。ここへ生きて帰ってとも、別の世界へ生きて帰ってとも解釈できる言葉だった。
襲撃の爪痕の残る街。ジョンは、もうここに戻ってくることなく、アースに帰れるだろうかと考える。そうなれば、ソラノやダルともお別れだ。この世界のことは、結局何も分かっていない。
「何考えてんの?」
ハナが前を向いたまま聞く。ジョンがどんな顔をしているかも見ず、なぜそんなことを聞くのだろうかと思ったが、それに触れようとは思わなかった。
「ちゃんと帰れるのかと思って。」
「帰れるさ。扉が閉まってなければね。」
ハナは素っ気ない。無事に帰れれば、彼女ともお別れとなる。ジョンは帰りたい気持ちの中に、仄かな寂しさを感じた。
「ほら、もうすぐ着くよ。」
ハナの言葉に、メンバーの緊張感が高まる。押し寄せてくる不安と恐怖を紛らわせるように、歩みを進める。ついに山の麓まで来てしまった。
「さて、登るか。トワイエの入り口は山頂だから、けっこう歩くよ。」
言いながら、ハナは何のためらいもなく山に入っていく。ここからが勝負だというのに、相変わらず緊張感がない。しかしメンバーの雰囲気的には、その方がありがたかった。
小さな世界の外側で ~第30話~
小さな世界の外側で ~第32話~
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タグ:小説
チョコバーを咥えている… にくいですねェ。
by tempest17 (2015-05-19 21:40)
tempest17 様
コメントありがとうございます。
励みになります。^^
by 井上さき (2015-05-20 12:58)