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小さな世界の外側で ~第37話~ [小説:小さな世界の外側で]






 遠くから歌が聞こえる。とても美しくて、穏やかな歌だ。聞き覚えのある、澄んだ歌声が響く。歌っているのはハナだろうか。それともアンナだろうか。歌詞の聞き取れない、二つの世界を結ぶ儚い歌。自分の身に起こったことは夢か現実か、結局はっきりとは分からなかった。たった一つ分かったことは、自分は確かに生きているということ。この心地よい時間が終わる頃には、紛れもない生の実感を得られるだろう。
 心地よい時間は、穏やかに終わっていった。






 気が付くと、見知らぬ部屋のベッドの上にいた。しかし、真っ白な天井と独特な臭いから、病院の一室であることはすぐに分かった。すぐ傍には、心配そうに自分の顔を覗き込むハナがいた。いや、ハナではない。
「・・・お兄ちゃん?」
 ジョンは上体を起こした。体に異常はない。
「アンナ、寝てなくて大丈夫なのか。」
「自分の心配しなよ。怪我は治ったのに、ずっと眠ったままだったんだから。私はもう大丈夫。病気に勝ったんだよ。」
 アンナは泣きそうな笑顔を見せた。彼女が入院してからは見たことのない、綺麗な笑顔だった。ふと思い至って、ジョンはポケットの中を探った。牙の首飾りはどこにもなかった。
「・・・そっか。」
 誰にも聞こえないような声で呟き、ジョンはアンナを抱き寄せた。アンナも嬉しそうに、ジョンの背中に手を回す。あの事故の直前に言おうと思っていたことを、ようやくジョンは口にした。
「僕、君のことが好きなんだ。」

小さな世界の外側で ~第36話~

小さな世界の外側で ~エピローグ~


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タグ:小説
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