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小さな世界の外側で ~第1話~ [小説:小さな世界の外側で]

 病院の無機質な窓越しに、抜けるような青空が見える。桜が咲き始めた公園のベンチで昼寝でもしたくなるような、のどかな昼下がり。金髪碧眼の端正な顔立ちの青年が、ぼんやりと外を眺めていた。
「ジョンさん、どうぞ。」
 中年の看護婦に呼ばれ、青年―ジョンはソファから腰を上げた。
「いつもお見舞いありがとうね。アンナちゃん、とても喜んでるわ。」
 ジョンは看護婦に笑いかけ、病室へ向かった。この病院―ルシエ病院には、2年前から彼の幼馴染が入院している。アンナという、13歳の少女だ。アンナ・フリージスと書かれた病室のドアをノックすると、どうぞ、という小さな声が聞こえた。
「こんにちは、お兄ちゃん。」
 ベッドの上で、アンナは上体を起こしていた。ジョンの姿を見て満面の笑みを向ける。大きな緋色の瞳が可愛らしい。漆黒の長髪をおさげにして、淡いピンク色のパジャマ姿だ。ジョンはアンナより3つ年上の16歳で、お兄ちゃんと呼ばれている。
「調子はどうだ?」
 ベッドの脇にあるイスに腰掛け、買ってきたイチゴを渡しながら聞く。一週間前にも来たが、その時より少し痩せたように感じた。
「今日はいい気分なの。お天気がいいからかな。」
 言葉とは裏腹に、病状はあまり良くないようだ。アンナは、自分の病の正体を知らない。ジョンにもよく分からないが、不治の病で、彼女の死期が近いことは知っている。2年前には、余命半年と言われていた。今生きていることが奇跡だと、医師たちは囁いている。






 ジョンとアンナには、親がいない。二人とも乳児期から孤児院で暮らし、ジョンは10歳から支援施設の寮で暮らしている。アンナは6歳で老夫婦の養子になったが、その夫婦はアンナが10歳の頃に亡くなった。その後、ジョンのいる寮にアンナも入ったが、11歳で発病し入院することになった。
「昨日の夜ね、おばあちゃんの夢見たんだよ。また会えて嬉しいって言ってた。私、これが夢なの分かってたけど、私も嬉しいよって言って、いろいろお話したんだよ。それでね、また会おうねって。」
 おばあちゃんとは、孤児院からアンナを引き取った婦人のことだ。楽しそうに話すアンナを見ながら、ジョンはなんとなく不吉なものを感じた。
 2時間ほど話して、ジョンは腰を上げた。アンナの笑顔が、微かに強張る。
「また来るよ。」
 取り繕うように笑うアンナに見送られ、ジョンは病室を出た。






小さな世界の外側で ~プロローグ~

小さな世界の外側で ~第2話~

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タグ:小説
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